サンダルフォン「メタちゃん、本当にひとりで大丈夫?」
メタトロン「だいじょぶですよぅ~お姉ちゃん。それじゃ、行ってきまぁ~す!」
天界きっての仲良し姉妹でもあらせられるサンダルフォン様とメタトロン様。
いずれも“七つの美徳”に列せられる立派な天使様なのですが、しっかり者の姉にとっては若干頼りない妹というのは、いつまで経っても心配の種のようでございます。
殊にメタトロン様のお人好しぶりは、天界の中でも抜きん出ておりまして、およそ人を疑うことを知らず、結果として誰にでも簡単に騙されてしまうのです。
ただ、あまりにも純真無垢なため、騙した側が罪悪感に苛まれ、耐え切れずに改心してしまう。それがメタトロン様の博愛の力であり、これまで数え切れないほどの悪の芽を摘んできた実績もありました。
もちろん、中には罪悪感を覚えることのない、救いようのない者共も少なくありません。そうした者にメタトロン様が絡まれた場合は、ひたすら酷い目に遭わされるばかりになってしまうため、サンダルフォン様は姉として心配になってしまうのです。
サンダルフォン「やっぱりお姉ちゃん心配。ナイショでドローン飛ばしとこっと」
ほかの天使様であれば、天界の眷属にこっそり見張り役をさせるところを、そこは発明家でもあるサンダルフォン様。なにやら得体のしれない発明品を満載した特製サンダルドローンを飛ばし、メタトロン様の周辺に目を光らせるのでした。
そんなこととは露知らないメタトロン様は、鼻歌で地上界の流行歌を嗜みながら、今回の任務である潜入調査に向かわれます。
今回の任務、それはとある施設で働く救世主候補者に近づき、最近いささか道を踏み外すこともあるその者の心を入れ替えさせること。それが無理なようであれば、救世主の候補者から外し、改めて地獄送りにするかどうかの裁可を下すことでした。
しかし超ポジティブ思考の性善説論者であられるメタトロン様は、「話せばわかります~」を信条とし、どんな問題も話すことで解決できると思い込まれています。
さぁ、メタトロン様が施設に到着しました。
そこはプロスポーツ選手や一流のアスリートが集まる総合スポーツ施設で、救世主候補者はここでは“神の手”と呼ばれる凄腕の整体師兼スポーツドクターとして名が通っているようです。
メタトロン様も天使の治癒役を自負し、薬学にかけては専門的な知識をお持ちなのですが、東洋式の整体術に関してはまったくの門外漢。せっかくの機会なので、任務そっちのけで救世主候補者から直々に整体術を習う気まんまんです。
なお、天界で渡された救世主候補者の資料にあった「古式腱引き」という漢字が読めず、「お姉ちゃ~ん、これなんて読むの~?」とサンダルフォン様にお聞きあそばされたメタトロン様。「こしきけんびきだよ」とお教えいただいてからというもの、忘れないようにひたすら「けんびき~けんびき~」と唱え続け、それ以外の情報をまるっきりお忘れになられたようです。
メタトロン「けんびき~!」
おかげで挨拶の言葉まで「腱引き」になってしまわれたメタトロン様。施設の方々も、元気にドアを開けて登場した爆乳美少女に気圧されるも、「けんびき教えてくださ~い!」と直球の要求をしてきた少女をとりあえず施術ルームに案内します。
さて、施術ルームにひとり取り残され、“神の手”を待つメタトロン様ですが、そこへ怪我をしたスポーツ選手がやってきます。
どうやら手首の捻挫のようで、整体を受けにきたわけですが、あいにくいらっしゃるのはメタトロン様だけ。
またメタトロン様も「今は整体師さんはいませんよ~」と告げればよいのですが、天使の治癒役としての使命感が頭をもたげ、やったこともない整体に挑んでしまわれるのでした。
メタトロン「は~い! まずはお熱を測りましょうね~! ぴと」
いきなりおでこをくっつけて患者の体温を測ろうとするメタトロン様。患者も若い男性だけに、爆乳美少女にそんなことをされたら心臓ばくばく、顔だって火照ってしまいます。
メタトロン「う~ん、ちょっとお熱がありますね~。それじゃあ痛いところを見せてくださ~い」
すでにこの時点でヤブ医者確定なのですが、そこが若い男の哀しい性というもの。爆乳美少女に診てもらえるならオールオッケーと、素直に捻挫した左手首を差し出します。
メタトロン様、普段ならここで“お注射モード”に豹変して無茶な治療をするところですが、今は気分的には整体師なので、整体師らしい施術をしようと考えてみます。そして出した答えが――
メタトロン「いたいのいたいの~、とんでけ~!」
なんとメタトロン様、患者の手首を爆乳の間に挟み込み、両手でお乳を上下に動かしてマッサージらしきことを始めました。
メタトロン「けんびき~けんびき~!」
それは絶対に「古式腱引き」ではないものの、メタトロン様の頭の中ではすっかり自分が“神の手”(むしろ“天使の乳”)のおつもりらしいです。
正直、捻挫はまったく治っていないのですが、患者は大層満足した顔で施術ルームをあとにしました。
そして驚くべきことに、噂を聞きつけた若い男性アスリートが我も我もとメタトロン様の前に列を作り始めたのです!
同じように手首が痛いに始まって、顔が腫れた、首筋を寝違えた、挙げ句の果てには股間を打ったなど、メタトロン様に痛い箇所を申告しては「けんびき~」をしてもらい、満足した顔で施術ルームをあとにしていきます。
しかしさすがに事が大きくなってきたか、騒ぎを聞きつけて、メタトロン様の前に立派な髭を貯えた壮年の男性が現れます。
メタトロン「あ~、もしかして“神の手”さんですかぁ~?」
男性は何も答えず、厳しい目でメタトロン様を見つめています。やはりインチキ施術に怒っているのでしょうか?
メタトロン「“神の手”さん、けんびき教えてくださ~い!」
一方、メタトロン様はニコニコ顔で厳しい目を受け留め、まるで臆する様子がありません。
そんなメタトロン様を見定めた男性が、重い口を開き、「ついてきなさい」と告げます。
男性についてメタトロン様がやってきたのは、施設の地下のとある部屋。メタトロン様が入室された後、男性がカチッとドアの鍵を閉めたことに、もちろんメタトロン様はお気づきになられておりません。
部屋の中を興味深そうにキョロキョロと見回すメタトロン様に、おもむろに男性が「服を脱ぎなさい」と指図します。
メタトロン「えっ、裸になるんですかぁ~?」
驚くメタトロン様に、男性が自分も服を脱ぎながら説明します。
男性「とりあえずは水着で良い。整体術は、人間の身体の構造を理解しなければ何も始まらない。骨や筋を見て、それを正しい位置に戻すために施術を行うのだ。直接肉体を見ずに、いかにして患部の状態を見定め、術を憶えるというのだ?」
確かに、服の上から骨や筋肉の状態を見るのは、素人には到底無理。術を憶えるために、服を脱いで教わるというのは理にかなっています。
メタトロン「わかりました~。よいしょ、よいしょ」
素直なメタトロン様は、言われるがままにお召し物を脱ぎ、眩しすぎる肉体を必要最低限の布地で覆われた姿を男性の前に披露されます。
たわわに実る両の膨らみも、水着の下でぷるんぷるんと波打っておいでです。
男性「じっとしていなさい。まずはこれを全身に塗るのだ」
そう言って、こちらもブーメランパンツ姿の男性が容器を手にメタトロン様の背後に回り、後ろから抱きしめるようにしながら、全身にオイルを塗っていくのでした。
メタトロン「ふぇぇ~、くすぐったいですぅ~」
やけに丹念にオイルを塗り込める男性。それでもメタトロン様は、これが整体術なのだと信じ、されるがままになっています。
たっぷりと時間をかけて、全身にくまなくオイルを塗られたメタトロン様は、続いて施術台に仰向けになった男性の上に覆いかぶさるよう指図されます。
メタトロン「こ、こうですかぁ~?」
さらに、身体を擦り合わせて全身をマッサージする術を教えられたメタトロン様が、たわわな両の膨らみやむっちりとした腰回りを密着させ、男性の全身を丁寧に擦りあげていきます。
メタトロン「ん~しょ、ん~しょ」
男性「よし、整体の基礎は憶えたようだな。それではいよいよ秘伝の術を教えてしんぜよう! さぁ、横になって足を開きなさい!」
言われるがままに、全身オイルまみれでてらてらと光を放つ肉体を仰向けにし、ほんのりと頬を染めながら両脚を大きく開かれるメタトロン様。さすがに恥ずかしいのか、両手で股間を隠しておいでです。
男性「何をしている。手をどけなさい」
メタトロン「ふぇぇ~ん、恥ずかしいですぅぅ~~~」
涙目になりつつ、手をどけて男性の前で大開脚を晒すメタトロン様。それを凝視しながら、男性がメタトロン様の水着にゆっくりと手を伸ばしていきます。そして指先が水着にかかり、布の下からメタトロン様の天上の花園が垣間見え――
ドカーン!!
突如、部屋のドアが木端微塵に吹き飛び、唖然とする男性が見つめる先に、謎のドローンが滞空していました。続いて男性に急接近したドローンから電極が飛び、男性に刺さった瞬間、男性が悲鳴をあげて失神。
目を丸くするメタトロン様に、ドローンの外部スピーカーから『メタちゃん大丈夫!?』とサンダルフォン様の声がかかります。
メタトロン「え~、お姉ちゃんなの~?」
サンダルフォン『そうだよ! “神の手”っていうのが女性アスリートにセクハラをしていたから、そっちの対処をしていたら、メタちゃんが変な男にかどわかされちゃったって! それでお姉ちゃん、大慌てで探したんだよ!』
本物の“神の手”のセクハラからメタトロン様を守ろうと、人知れずサンダルフォン様が奮闘された結果、“神の手”は御用となったようです。ところが、代わりにメタトロン様がどこの誰ともわからぬおっさんに慰み者にされる寸前になってしまったのでした。
メタトロン「それじゃあこのおじさん、誰だったんだろ~?」
サンダルフォン様の特製スタンガンを喰らい、白目を剥いている髭のおっさんの正体はわからぬまま、とりあえず“神の手”は救世主候補者から罷免ということで、メタトロン様の任務は終了となったのでした。
サンダルフォン『メタちゃん、この男どうする? 地獄送りにする?』
メタトロン「え~、いいよぅ~。整体、気持ちよかったから~」
サンダルフォン『え!?』
かわいい妹が大人の階段を上ってしまったのではないかとヒヤヒヤするサンダルフォン様なのでした。