「勤勉な人間を作るには、教育が大切なのです!」
天界でもトップクラスの生真面目さで、ご自身が司る美徳“勤勉”を世の中に広めようと日々努力される天使、サンダルフォン様。
周囲から勤勉さのお手本と見られるべく、常にあくせく働くことをご自分の使命と捉え、毎日必要以上に忙しく働いておいでです。
しかし、せわしなく動き過ぎて自分が何をやっていたかを忘れてしまうような方でもあるため、うっかりミスも大変多く、最後は仲間の天使たちに助けていただくこともしばしば。そんな、意外と手間のかかる子である点も、みんなに愛される理由となっております。
さて、本日のサンダルフォン様ですが、今回は人間の学校に潜入調査に来ています。
外国からの短期留学生との触れ込みで、とある中学校に生徒として潜り込んだサンダルフォン様。
さすがに中学生という年齢設定には無理があったかと思いきや、なんの疑いもなく中学生に見られたことに、いささか複雑な想いも感じられた模様です。
国語、数学、物理、英語――。率先して授業に参加し、びっしりとノートを取りつつ、教室中に目を配っては、寝ている生徒や隠れてゲームを遊んでいる生徒をチェックする。そして休み時間になると、それらの生徒に「なんのゲームを遊んでいたんですか?」と聞いたり「顔に服の線がついてますよ」と笑ったりすることで、その生徒に「留学生に恥ずかしいところを見られた!」と思わせ、授業中の態度を改めさせる。それがサンダルフォン様のやり方なのでございます。
その結果、お昼のお弁当の時間には、接点を持った生徒たちに囲まれて笑いながらサンドイッチを食べるサンダルフォン様の姿がありました。
続いて午後の授業は、体育。
活力に溢れた毎日を送るには、健康な身体が第一と考えるサンダルフォン様は、日頃から鍛錬も欠かしません。
女子生徒たちに案内されて更衣室に入り、着替えた体操着は――ブルマー。追放運動によって絶滅したと思われていた衣類文化を継承保存する校風であったことが、天界の担当天使の目に留まり、サンダルフォン様の潜入調査対象となった経緯があるようです。
体育館に入ると、一面に体操用器具が並べられておりました。今日は器械体操をやるようです。
準備運動に続いて、生徒たちが跳び箱の前に並びます。
そして先生の指導のもと、男女で高さの違う跳び箱に、ひとりずつ駆け出します。
さぁ、サンダルフォン様の番が回ってきました。留学生の美少女のお手並みを拝見しようと、全員の視線がサンダルフォン様に注がれます。
「(てってってってっ)えいっ!(ぼてっ! ずりっ!)はぎゃっ!?」
……残念。サンダルフォン様は足をピンと開いた開脚跳びを見せるも、跳び越しきれず、最後にお尻を角に引っかけてズリ落ちる失態を演じてしまわれました。
そう。サンダルフォン様は大変真面目ではあるものの、わりとどんくさい……いえ、運動能力にいささか難がお在りのようです。
「てへへ、失敗しちゃいました!」
かわいらしく照れ笑いするサンダルフォン様。しかしご学友の皆様は、サンダルフォン様の背中側、より具体的に申せば臀部に熱い視線を集中させています。
サンダルフォン様は跳び箱からズリ落ちた際、ブルマーがめくれ上がってお尻に喰い込み、それはもう見事なはみケツ状態になられていたのです。
ところが普段の装いがはみケツよりもっと過激なサンダルフォン様は、まるで気づいておられないのでした。
続いて鉄棒に挑戦されるサンダルフォン様。案の定ぶら下がったはいいものの、逆上がりもできず、にっちもさっちも行かずに足をバタバタさせています。
仕方なく、背の高い男子に手伝ってもらって鉄棒に片足をかけ、さらに持ち上げてもらってどうにか鉄棒に跨る形には収まります。
でも、ここからどうすればよいのか途方に暮れるサンダルフォン様。そのうち全体重がかかった股間に鉄棒が喰い込んで痛くなり、もぞもぞと身体を動かしてしまいます。
あっ!? と思った瞬間、バランスを崩してしまうサンダルフォン様。「ひゃああっっ!?」と悲鳴を上げつつも、必死で鉄棒だけは放さないようにした結果、横回りでぐるんと回転を始めます。
「助けてぇ~~~っ!!」
そのとき、タイミングを見計らってサンダルフォン様を受け留め、助け下ろしてくれる人物が現れました。
鉄棒に上がる際に補助してくれた、背の高い男子です。
フラフラになったサンダルフォン様は、「大丈夫?」と聞いてくるその男子に弱々しい笑顔を返し、とりあえず体育館の壁際に座って休むことにしました。
その後は体操の授業をぼんやりと眺める“怠惰”な時間を、やむなく過ごすはめとなったサンダルフォン様ですが、やがてひとりの生徒に注目し始めます。
先程助けてくれた、あの背の高い男子です。
どうやら彼は体操部期待のエースらしく、吊り輪をすれば十字懸垂からの二回宙返り、マット運動ではムーンサルトと、圧倒的な身体能力を見せつけます。
女子生徒たちが熱い視線を向けていることから、人気の高さも伺えます。またサンダルフォン様を助けてくれたように、ほかの生徒の補助を進んで行っている姿を見れば、性格も良いものと思われます。
この学校に救世主候補がいるとの情報は特に受けていなかったものの、サンダルフォン様的には充分素質ありと判断されたようです。むしろ自分が推薦し、救世主に導こうと意気込むほど、高く買われたようでした。
続く組体操で、2人1組を作るよう指示が出されたのを合図に、サンダルフォン様が背の高い男子に「一緒にやりませんか?」と声をかけます。
思春期真っ只中の中学生だけに、男子は男子、女子は女子同士で組むことが多い中、男子に積極的に声をかけたサンダルフォン様に「留学生は積極的だな」と注目が集まります。そんな中でも笑顔で引き受ける辺り、この男子は本当に救世主の器を持っているのかもしれません。
まずは補助倒立で、ひとりが逆立ち、もうひとりが振り上げた足を受け留め、倒立を支える役を担います。最初にサンダルフォン様が逆立ちをし、男子が受け留める側となりました。
男子は体操部員で補助にも慣れており、サンダルフォン様が華奢な身体をされていることもあって、どのようなやり方をされても受け留める自信がありました。そこで「思いっきり蹴り上げていいよ。僕が必ず受け留めるから」と、サンダルフォン様を安心させる言葉を笑顔で投げかけます。
サンダルフォン様もそんな彼を信頼し、言われるままに思いっきり蹴り上げて、やったことのない逆立ちをしてみたのでした。
サンダルフォン様は確かに、あまり運動が得意な方ではありません。しかし、歴とした“七つの美徳”に数えられる天使でもあらせられます。
蹴り上げた脚は、一流の格闘家よりも速い踵落としとなって男子を襲い、受け留めきれなかった男子はサンダルフォン様を抱えて倒れ込んでしまいました。
それでもサンダルフォン様を放さなかったのは、放せば転倒した彼女に怪我をさせてしまうという使命感から来るものでした。彼は本当に真面目で優しい少年だったのです。
その結果、上下逆さになって背中側から男子に抱きかかえられたサンダルフォン様の、開いた両脚の間に男子が必死で顔を埋めている格好がそこにありました。
しばらくは何が起きたか双方わからず、もぞもぞと顔を上げて周囲を確認した男子の動きを股間に感じ、サンダルフォン様も自分の体勢をようやく理解。慌てて身体を放したのでした。
「ごっ、ごめんなさい! 勢いつけ過ぎちゃって!」
「いっいや、僕も支えきれなくてごめん!」
あくまでも事故であるため、サンダルフォン様も股間に顔を埋められたことをさほど引き摺ることなく、次の練習に移ります。
次はお互い背中合わせになって、頭上で手をつなぎ、ブリッジから後方倒立回転飛びの要領でくるりと回る運動を行います。
最初にサンダルフォン様が補助側、男子が回る側で行いますが、元々バク転が得意な男子は苦もなく成功。続いて男子が補助側、サンダルフォン様が回る側になります。
先程の踵落としの印象が強い男子は、サンダルフォン様が見た目よりも体重が重いと判断。若干勢いをつけて前屈し、背中のサンダルフォン様を回そうとします。しかし見た目通りに体重が軽いサンダルフォン様は、勢いよく回された結果、身体を高く放り上げられ、着地の際にも体勢が崩れて前につんのめり、またしても男子を巻き込んで倒れてしまいました。
しかも回っている間に体操着が捲り上げられ、もつれて倒れた拍子に男子の顔を、露出した胸で受け留める形になってしまいます。
天界きってのささやかな胸と言われるサンダルフォン様ではありますが、それでもわずかな膨らみが男子に天使のやわらかさを感じさせます。
極上の感触に虜になりそうになった男子ですが、気恥ずかしさと理性が勝って慌てて身体を起こし、再び「ご、ごめん!」とサンダルフォン様を助け起こします。いささか前屈みなのは、年頃の男子の事情でしょう。
ともあれ、ご自身が真面目な性格だけに、彼のような真面目な人間が大好きなサンダルフォン様は、すっかり彼のことがお気に入りのようです。そこで救世主候補の試験として、彼の頭の中を窺い知るべく、装着した者の思考を読み取る発明品『ヨミトレールⅢ型』を付ける機会を伺います。
チャンスが来ました。2人1組でストレッチを行う際、開脚して前屈する男子の背中を押すサンダルフォン様が、後頭部にそっとヨミトレールⅢ型を装着します。
突然体育館に鳴り響く「おっぱい!」「お尻!」の電子ボイス。思考を言葉に変換するヨミトレールⅢ型の性能は、それは素晴らしいものです。しかし、美少女と散々触れ合った中学生男子の頭の中をクラスメイトの前で音声に変換するのは、いささか酷というものでしょう。
哀れ、体操部エースは顔を真っ赤にして走り去り、後には女子生徒たちのひそひそ話す声が残されました。
今回はサンダルフォン様、失敗の巻のようです。このままでは体操部エース君がトラウマを抱えかねないため、サンダルフォン様の妹君のメタトロン様がなにやらお注射で治療をされたそうですが、それはまた別のお話――。